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「・・・あちゃー!」
「ホントにごめんなさいね、碧ちゃん・・・こんな事になってしまって・・・」
平謝りする大家さんの後ろで、上の階に住んでいると思われる男性が頭を下げている。
「これは、また・・・派手にやらかしたな。」
あの冷静な城崎さんでさえ、目の前の惨状を見るなりそう呟いてしまうくらい、部屋の中は散々たるものになっていた。
キッチンもリビングも、まるで集中豪雨に見舞われた後のように水浸しで・・・かろうじて難を逃れたのは、クローゼットの中と寝室の一部だけ・・・
おそらく、家財道具のほとんどは、もう使い物にならない。
「・・・はぁ。」
「とりあえず、身の回りの必要なものだけ持って行くか・・・」
「・・・ですね。」
私は、気を取り直すと、押し入れにあった衣装ケースに、着替えや必要な日用品を詰め始めた。
「アオイ・・・コレも持ってくの?」
傍らでは、昂くんもお手伝いしてくれている。
「うん。その袋に一緒に入れておいてもらえる?」
「わかった!」
ふと本棚を見ると・・・例のファイルが、本の隙間から少しだけ顔を出しているのが目に入った。
(あ、コレは、無事だったんだ・・・)
私は、本棚からファイルを抜き取ると、着替えと一緒に衣装ケースに入れて蓋をした。
「とりあえず、これで・・・また必要なものがあったら、取りに来ますから。」
「ごめんね、碧ちゃん。また、追って連絡させてもらうわね。」
車のトランクに荷物を詰め込むと、私たちは、大家さんに見送られながらアパートを後にした。
「帰ったら風呂に入って・・・ゆっくり寝るといい。」
終始俯いたままの私の頭上に、穏やかな声が降り注ぐ。
「・・・はい。」
私は、小さく返事をするのが精一杯で・・・
時々目に入るキレイな手とキュンとする胸の痛みに・・・ただ戸惑うばかりだった。
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