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城崎家に帰った私は、まだ夕飯を食べていないという彼のために、シチューを温めながらこれからの事を考えていた。
とりあえず、1ヶ月間・・・城崎さんに迷惑だけはかけないようにしなくちゃ。
時折見せる彼の優しさに・・・未だ見せてくれない彼の笑顔に・・・戸惑いながらも、引き寄せられていく自分の気持ちが手に取るように分かる。
でも、彼は、私とは違う世界に住む人だ。
きっと、私の思いなんて・・・吹けば飛んでしまうようなものでしかない。
彼には、もっと華やかな女性が似合うと思うから・・・
だから、もう・・・これ以上は・・・
そうやって自分自身を戒めているところに、また優しい言葉がかけられる。
「風呂が沸いたから、先に入って来るといい。後は、自分でやるよ。」
城崎さん、知ってますか? あなたのその優しさに、一喜一憂する人間がいるって事を・・・
私は、ゆっくりと瞼を落とすと「ありがとうございます。」とだけ言って、その場を離れた。
いったい、この人と、どれくらいの距離をとればいいのか・・・
そんな心の距離と物理的な距離の狭間で揺れていた私が、「無駄な事を考えていた」と思い知らされるのは、1時間半後・・・
私は、独りよがりな気持ちを抱えたまま、着替えを取りに部屋へ向かった。
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