第3章

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そして、着替えを持ってバスルームへ向かうと・・・ 「ダメだ!」 「何でよ、父! いいでしょー?」 「ダメだと言ったら、ダメだ!」 バスルームの前で、何やら城崎親子が言い合いを始めていた。 「あ、あの・・・いったい、どうしたんですか?」 めずらしく地団駄を踏んでいる昂くんに驚いて聞いてみると・・・ 「だって、オレ、まだ5歳なんだよ? ねえ、アオイ。一緒にお風呂入ってもいいよね?」 ・・・は? いったい、何を言い合ってるのかと思えば・・・一緒にお風呂? 「あ、あの、それは・・・」 何て返事をすればいいのか分からず、言葉に詰まっていると・・・城崎さんが、至って冷静な表情で口を開いた。 「オマエ・・・都合がいい時だけ『5歳』を強調するなよ。」 「だって、5歳だもん! オレ、アオイと一緒に入るッ!」 「絶対にダメだッ!」 城崎さんは、昂くんのズボンのウエスト部分をむんずと掴むと、そのまま彼を片手で吊し上げた。 「あ、あの・・・私なら大丈夫ですけど・・・昂くんと一緒でも・・・」 「何言ってるんだ!昂は男だぞ?ダメに決まってるだろ!」 このままでは収拾がつかないと思ったから、そう言ったのに・・・何も、そんな鬼の形相で返さなくたって・・・ だいたい、アンタこそ、何考えてんだ? 齢(よわい)5歳の子供を掴まえて「男」って・・・まだ、ポークビッツだっつーの! 「・・・とりあえず、お風呂いただきますね。」 「ああ、早いとこ入ってくれ。」 「では、お先に失礼します。」 私は、いったいどちらが子供なのか分からない親子に別れを告げると、おもむろにバスルームの扉を開けた。 「・・・はぁ。」 リビングの方からは、あいかわらず「イヤだー!」「ダメだー!」の声が響いて来て・・・ その声は、しばらくの間、止む事がなかった。
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