第1章

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和室の上座には、綺麗に化粧をした婆ちゃんが寝ている。 年に似合わずスマホを懐から覗かせて、桐の棺に収まって。 「おばあちゃん、今ごろ何してるかなぁ」 妹のミホが、黒いワンピース姿で呟いた。 黒ストッキングを穿いた足を崩して畳に座る様は、普段のセーラー服姿よりも、ちょっとだけ大人びて見える。 両親は俺たちの対面で、足を揉んだり茶を啜ったりしていた。 「何って、そこに寝てるだろ」 俺が慣れないネクタイを緩めながら返す。 祖母は月曜の明け方に自宅の階段から足を踏み外して、そのままあっけなく逝ってしまった。 「んもう、わかんないかなぁ。天国でどうしてるかって話でしょ」 今日は仮通夜だ。家族四人以外、もうこの家に訪れる者はいない。 明日の本通夜だって、どれほど人が来るかは微妙だろう。 婆ちゃんは個性的だったから、友人はそれほど多くなかった。 俺のように面白いと感じる人もいれば、人騒がせだと嫌悪する人もいる。 「天国ねえ。婆ちゃんのことだから、またやってんじゃねーの?」 俺が眉を上げて歯を見せると、湯呑みを持ち上げて母が訊く。 「イタズラのこと?」 「そうだね。お兄ちゃんの言う通り、今ごろ神様にまでイタズラを仕掛けてるかも」 ミホが目を伏せて笑った。 七十九歳での急逝だから大往生とは言えないが、さほど重苦しい雰囲気はない。 それはひとえに、婆ちゃんの性格ゆえだ。 「まーた本の表紙と中身シャッフルしてるかもな。学校で参考書開けたらマンガだったときは目ぇ疑ったぜ」 「あたしなんか、日記こっそり水増しされてたんだよ。筆跡まで真似てさ。急に三日先まで書いてあったから、思わずカレンダー見ちゃった」 「しかも、未来日記に書いてあった通りのイタズラまで仕掛けて来たんだろ。手間掛かってるよな」 「防がれないように、時間帯とか場所とかはボカして書いてあったんだよね。頭良いって言うかズル賢いっていうか……あの調子で神様にやったら、怒って地獄に落とされちゃうかも」 「でもさあ、スゲーと思うよ。七十代でアレとか、感心する」 知人であれば誰かれなくやってしまうから、祖母の癖を嫌がる人は多い。 しかし俺は、そこまでのバイタリティを持った婆ちゃんを、単純に尊敬していた。
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