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色を失った父が、茫然とした口調で言う。
「またイタズラか……?」
「お父さん、しっかりしてよ! どうやって死んでからもイタズラ出来るって言うの!」
「落ちつけよミホ」
たしなめてはみたものの、俺も動揺していた。
地獄という文字が、強烈に脳に響く。
本当に彼女の仕業なら、七十九年のイタズラ人生を締めるにふさわしい出し物だ。
「お義母様も不謹慎よね、いくらイタズラにしてももう少しやりようが……」
母が早口でまくし立てる。
自分に言い聞かせているかのようだ。
父はせわしなく視線を動かしながら、呻くように言った。
「ミホの言う通りだ。これは一体、どうやって出来たんだ」
幽霊、という一語が皆の脳裏をかすめている。
言葉にしなくても、俺には分かった。
「……ばあちゃんの友達に頼んだとか、どうかな」
何気なく言うと、母は縋るように目を輝かせた。
「そうね、きっとそうよ。ほら亡くなる前に家に来てた沢田さん。あの方、お婆ちゃんとは仲が良いから……」
しかし、ミホは固い表情のまま否定する。
「どうやって? お婆ちゃんのスマホは、さっきからずっと棺の中でしょ。死に装束の胸元に挿してあるの、みんな見たじゃない」
その通りだった。
去年購入したもので、よく俺やミホが使い方を教えていた。
暇を見てはいじくりながら、最近では簡単な操作を一通りこなせるようになっていたのだ。
父が項垂れながら、首もとをしきりに揉んでいる。
「あのな、実は……
お婆ちゃんのスマホ、電源が入っとらん。
もう必要もないと思って……昨日、俺が……」
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