第1章

8/9
前へ
/9ページ
次へ
――どう考えたって、わざと足を踏み外したなんてことはない。 とすれば、あれは事故なのか? 再び、家族三人が待つ和室へと戻る。 薄暗い廊下を一歩踏み進めるごとに、不安は得体の知れない恐怖に変化し始めた。 ――事故の前にタイマーメールを仕込むだけなら、婆ちゃんにだって出来る。 和室のふすまにかけた手が、止まった。 中からは、聞きなれた声たちが楽しげに談笑している。 ――家の階段から婆ちゃんは落ちた。 事故だとすれば、いつ、誰があのメールを仕込んだんだ? 夜中の階段。 寝静まった家。 だとしたら。 ――あのタイマーメールを仕込んだ人は…… 背中を冷たい汗が伝う。 ふすまの先にある部屋が、どんどん遠ざかっていくような錯覚に陥った。 震える指先が、皆の部屋へと戻ることを拒否し始める。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加