通達

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――眩しい。 うっすらと目を開けると白い天井が目に入った。 そして懐かしい顔が俺をのぞき込んでいた。 女手一つで育ててくれた母の顔だ。 その顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。 ……ここは病院? あ、俺事故にあったんだ。 俺は漸く状況を把握する。 運よく俺は一命をとりとめた。 体中から痛みを感じる。 俺、生きてる。 そう思った途端、頬を温かいものが通過したのがわかった。 そっと触れる。 ……涙だ。 生きてることを嬉しく感じたのは生まれて初めてだった。 生きててよかった……。 もしかしたらメールの中の俺はドッペルゲンガーだったのかもしれない。 俺は人間は必ず死ぬから仕方がないと心の何処かで思っていた。 恐怖のメールを見たとき、あの世に連れて行かれそうになったとき……。 初めて死を感じた瞬間、俺は一瞬無になった。 そして生き返った。 生きてる実感を感じたとき俺は生きている嬉しさも感じることができた。 この体験は俺自身が生きるための、試練で教訓だったのかもしれない。 ドッペルゲンガーの俺がそれを教えてくれたのだろう。 俺はふと携帯を見る。 あの通知は……跡形もなくなくなっていた。 母親が俺の手を握る。 優しい温もりを感じる。 この優しい手、今度は俺が守る。 その為にも、俺は……。 生きていく。
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