残星

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「グハッ!!!」 背後の壁にしたたかに打ちつけられ、激しい痛みが全身を襲う。見上げれば、戦士はもう目前に迫っている。緩慢な動作でしゃがみこみ、リュウシンの襟首を持ちあげた戦士は激しい憎悪を宿した表情を浮かべ、問いかけてきた。 「貴様、人間の分際で何ゆえ炎神の加護を受ける!?それとも貴様も裏切り者の末裔か!?答えよ!!!!」 戦士は興奮した面持ちでリュウシンの返答を待っている。滑稽にも思えるが、裏切り者と呼ばれるいわれには全く思い当たる節がない。レゾニア人の方にあったとしてもそれはリュウシンにかかわりのないことだった。 「何の……話だ。裏切り者だと?それは味方すらも殺したお前の方だろうが!!」 「どこまでも白を切り通すつもりか……。貴様らの祖先が炎神の寵愛を独り占めにして、逃げ出したことがそもそもの発端よ!!ゆえに我らはこのような異世界での戦に駆り出され、死ぬ羽目になったのだ!それを裏切りといわずして何と言う!!?」 戦士はますます激高し、リュウシンの襟首を締め上げてくる。苦し紛れに右手を戦士の前に掲げて叫んだ。 「お前の戯言に付き合うつもりはない!これで終わりだ!!」 同時に激しい炎の渦が二人を包む、だが戦士は怯まない。肌に焼けた跡が残るものの、気迫がそれを凌駕したようだった。 「所詮は子供だましか、下らぬやつよ。炎神も人を見誤ったな」 面白くなさそうに、リュウシンを放り投げ戦士はもといた場所に戻っていく。 剣を杖代わりに何とか立ち上がり、その背を睨むもののまだ体に力が入らない。戦士は見たところ獣の牙を身につけている様子はない、それでもこれだけの力の差を見せつけられたのは初めてだったリュウシンは半ば、愕然としていた。逆にこれほどの男がなぜ味方すらも手にかけたのかわかりかねた。 「貴様、それだけの力があってなぜ味方を裏切る様な真似をしたんだ?」 リュウシンの問いに再び、腰を下ろした戦士は傍らに置かれていたものを持ち、撫で始めた。 「それこそ貴様には関わり無きこと、命惜しければさっさと消えろ。興醒めだ、ようやく我を殺せるものが来たと思うたにな……」 戦士の掌にあるものを見て、リュウシンは顔をしかめた。それは人の頭蓋であった。
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