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獣が駆け抜けた跡には、リュウシンが立ちつくすのみ。
「ギュオオオオオオオオンンン!!!!!」
甲高い咆哮とともに獣の五体がバラバラに崩れ落ちた。それを見た戦士は無言のまま、歩き始めた。
「その剣捌き、やはり貴様が俺の敵か。いや間違いない、あの時に見た面差しによく似ている。そうか、貴様が俺のすべてを奪った男か。ならば、ここで殺してくれるわ!!!」
殺された獣に目もくれず、戦士は石斧を振り上げリュウシンに迫る。その動きには先ほどの鋭さは微塵もない、ただ感情に駆られて息子の敵を討たんとする親の姿があるだけだった。
リュウシンは迷うことなく動いた。その剣が戦士の片腕を切り落とし、胴をなぎ払う。すべては一瞬の出来事であった。
「グッ!所詮、俺はここまでか……。小僧、我が子を殺された無念は我が死のうと消えはせぬ、貴様の行く先には地獄が待っていよう。覚悟しておけ……」
下半身と泣き別れした戦士はそれだけ言って動きを止めた。リュウシンはためらいなく獣の牙で止めを刺す。
今この廃墟には自分以外動いているものはいない。
不意に他人が恋しくなった。思い出の中でしか会えない人々、そして何よりも愛しい少女の姿。二つの思いが重なり、メイシャンのことが思い出される。
「帰ろう、みんなのところへ。俺は一人じゃないんだ……」
リュウシンは剣を鞘に収めるすらことを忘れたまま、歩き出した。
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