第1章

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確かに吉田の言った事に共感する部分もある。 だけど…… 「好みなんて言葉で表現出来ないだろ。吉田はどうなんだよ」 「オレは、グラビアアイドルみたいなのじゃなくて、細くてウエストが締まってる子ですねー。 チチはBカップで十分 」 「そんなの服着てたら分からないでしょ」 「だから想像するんですよ。それがニヤニヤ、落とす時の醍醐味なワケです」 「やっぱ変態」 綾野が呆れたように蔑む目で吉田を見る。 吉田はそんな視線をモノともせずに、しゃぶしゃぶの肉に食らいついている。 「店長はやっぱミユキさんですよねー。細いけど胸がふくよかな感じ。ミユキさん、そう言えば全然お腹目立ってないですね」 吉田がミユキの話題を出した途端に綾野の表情が冷たく素っ気なくなる。 「妊娠中期にならないとお腹は大きくなってこないよ」 綾野の声のトーンが下がる。 綾野は、感情がすぐ表に出るから分かりやすい。 「でもミユキさんはオレの好みのシルエットに結構ハマってるんですよねー、あ、スミマセン、店長」 「謝るなら言うな」 ミユキはEカップはあるけど。 「胸はBでいいんでしょ? ってゆーか、顔はいいの?ブサくてもいいわけ?」 「何言ってんすか。顔もそこそこ可愛くないと体のシルエットまでたどり着きませんよ」 「結局顔じゃん」 「顔が良くても体のシルエットがダメだとダメなんです」 吉田も言った手前、 持論を正当化させようと必死なのが、なんだか見てて滑稽で面白い。 「全体のシルエットは大事だぞ、綾野」 「はぁ?店長までそんな事言うんですか」 「ヘアスタイルはまず全体のシルエットをイメージして作っていくものだから」 「そう繋げますか。さすが店長」 綾野は苦笑して、ビールを口に運ぶ。 「バランスいいスタイルは万人が良しとする感覚だから、その感覚を持って技術で表現できないと、オレ達は無意味な存在になるからな」 「はぁーい、店長」 綾野の気の抜けた声に少しイラッとする。 そして吉田を見れば、誰からか着信があったようでスマホに気を取られてオレの話を聞いてない。 せっかく、オレが良いこと言ったのに。 「店長、すいません、オレ抜けていいですか?」 「何だよ、急に」 「美専の友達と今日、夜約束してたの忘れてて」
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