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「そんな傷ついた顔しないでください。こっちまで悲しくなります」
綾野は押し黙ってしまったオレを見て、
哀れむような瞳を向ける。
オレ、なんだかすげー惨め。
ミユキにフラれた惨めな男じゃん。
「もう、ミユキさんは諦めてください。この間、ミユキさんと話した時、サロンも辞めるかもしれないって言ってましたよ。
店長と毎日顔合わせるのがツラいんじゃないんですか?」
「いや。ミユキは辞めさせない」
辞めさせるか。
ミユキはオレの目の触れる所にいてもらわないと困る。
アメリカ行きも阻止してやる。
腹の子がオレの子なら、絶対ミユキを行かせない。
オレの子は絶対リューマにはやらない。
無意識に奥歯をギリッと噛みしめてしまう。
綾野もそんなオレの様子に怯んで、手元にあるサワーを一気に飲み干す。
「おかわりしていいですか?」
「飲みすぎじゃないの?顔赤いし」
「え、まだ2杯ですよ? 私店長よりはお酒強いと思います。顔が赤いのは店長のせいです」
「…………」
ストレートな言葉に、言葉を失ってると
綾野は店員を呼んで3杯目を頼んだ。
「店長は同じのでいいですか?
違うの頼みます?」
オレの無くなったジョッキを見て訊いた。
オレの方が酒が弱いみたいに言われて、癪だからオレもお代わりする事にした。
「ウーロンハイ」
綾野と3杯目を飲みながら時間を確認する。
1時間半の食べ放題コースだからあと30分くらいで終わりだ。
ちょうどいいな。
「店長は……私とキスしてどう思いましたか? 少しは私の事意識してくれてます?」
やっぱりそっちの話題にいってしまうのか。
「オレはサロンの子とはそうゆう意識を持たないようにしてるから」
「何でですか?ミユキさんとは特別な関係になったのに?」
「オレは今は経営者だから。軽はずみにスタッフと関係を持ちたくない」
「え、理解できません。ミユキさんは良くて私はダメなんて……」
「綾野、ミユキと綾野は全然別もんなんだよ。今まで培ってきた時間も信頼も心の中まで見えてしまうくらい想う気持ちも、ミユキと綾野は違う。」
「そんなの……今から店長が私と時間を通して培っていけばいいじゃないですか。
いつまで、過去にしがみつくんですか。
苦しくなるだけですよ」
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