第1章

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握りしめていた携帯が短く震えた。 来た。待ちかねていた返事が、やっと来た。 嬉しさをかみしめて、あたしは携帯を胸に押し当てた。 これは絶対に清水くんからだ。彼の教室を扉の陰からのぞきこみ、そう確信する。清水くんは自分の席でずっと携帯を操作しているもの。 清水くんは学年の男子で一番人気のある男子だ。狙ってる女子が何人もいる。でも、あたしだって負けてない。悪いけど、おそらく校内では一番人気がある女子のはず。小学生の時から街でもナンパされてたし、手紙だって告白だって、中学に入学してからどれくらい断ってきたかもう覚えてない。 けれどあたしはまだ誰とも付き合っていない。何故かって? それはあたしにふさわしい男子が周りにいなかったせいね。その点、清水くんは申し分ない男子なの。背が高くてスポーツ万能で成績もそれなりに悪くない。なにより、あたしと並んでも充分つりあうイケメンなのが最大のポイントよ。 それにしても今朝のメールの返事が今ごろなんて、どうしたのかしら。いきなりあたしからでびっくりしちゃったのかもね、きっとそう。どう返そうか悩んでいたんだわ。 握りしめていた携帯を操作し、新着のメールを開いた途端、あたしは凍りついた。 『誰だお前。いたずらはやめろ』  こんな言葉を投げつけられるとは想像もしてなかったから、心臓がびっくりするほどどきどきした。あたしったらうっかり名乗り忘れたのかしら、そんなはずないけど。  急いで返信画面にする。 『ごめんね、塚本綾美よ。突然で驚いたかもだけど、友だちとしてからでもおつきあいできないかな? よかったら今度の土曜日、一緒にでかけよ?』  うん、フルネーム入れたしこれなら判るでしょ。可愛い絵文字も入れて、送信。  すると、目の前の教室から悲鳴がした。 「うわぁっ、やべぇよ、ゆ、ゆーれい?」  がたがたと机がずれる音がする。席を立って窓際までふらふらと後ずさる清水くんが見えた。机の上に放り投げた携帯を見つめておびえてるみたい。どうしたのかしら、真っ青だし。  教室のドアに手をかけて一歩近づく。ぐちゃ、と湿った音がした。  やだなに? へんなものでもついてたのかしら、気持ち悪い。後で手洗わなくちゃ。  急に生臭いにおいが鼻をついた。なにこれ本当に気持ち悪いったら。 「どうしたんだよ、清水」 「そのメール……」
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