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穏やかな風の吹く午後だった。
青薔薇の咲き乱れる庭園の中、久遠がひとり隠れるように日本酒の酒瓶(さけびん)を持って祝杯をあげている。
優人がゆっくりと薔薇の生け垣のチェックをしながら歩いていると、不意に声が掛かった。
「あれぇ、お人形さんだあ」
『お人形さん』と言う声に、優人がほんの少し警戒して声のした方を見る。へらっとした警戒心のない顔は、自分に良く似ていた。
「……死神さんですか」
「うん、そう……」
次に続く言葉を忘れたように、優人の顔を見る久遠。彼の長い死神生活の中で、これほどそっくりなのには出会ったことがなかった所為だ。
「……人形狩り、ですか」
自然、戦闘体制になる優人。対する久遠は、逆に酒の入ったグラスを差し出した。
「……?」
「今年の人形狩りのノルマは終わりましたので、一緒にいかがですか?」
「……は?」
「今年のノルマ終了の祝杯ですよ」
「私は人形ですよ? 実際には飲めません。……気分的には可能ですけど」
「いーじゃないですかあ♪」
「……」
優人がグラスを受け取り、口に運ぶ。
久遠がどこかからグラスを取りだし、酒を注(そそ)ぐと口に運ぶ。……かなり酔っている。
「……お酒、何本目ですかっ!?」
「んー……10……忘れたあ」
……ザル。
あんぐりとする優人。
.続く
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