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シャァァァァ……。
ガシャーンッ!!
館の一階の右側回廊の端にある台の上にあったはずの花瓶が割れている。そして、廊下の端にある観音扉の左手のドアが破損している。
そんな事をするのは、一定の人形か、死神が襲って来たかしか考えられない。
優人が音のした方を見ると、予想通りのモノが薔薇の生け垣に見える。頭から突っ込んだのか、彼特有の鮮やかな赤い色の髪は、見えない。黒と白の縦縞のサムエルパンツと、赤と黒のスニーカーが薔薇の生け垣から『生えて』いる。
しかも、当人は生け垣から出ようともがいているから余計生け垣の中に入り込む。
彼の名は、及川志狼。スケートボードで広い館内を走り回っては何かしらトラブルを引き起こしている。
彼所有のスケートボードが見当たらないのを見ると、何処かへふっ飛んだのだろう。
優人は大きくため息を吐いて生け垣に向かった。
「…………」
無言で志狼の足を引っ張り、生け垣から出す。
「うわ……ありがと、優兄ちゃ…………」
無言で志狼の身体をチェックする。
生前と違い自然治癒(しぜんちゆ)が望めない人形たちは、怪我をすると人形師に直してもらう事になる。
死神に会ったとか万一の事がない限りは、無意識にしろ意識するにしろ、極力傷つかないようにしていると言うのに、……この男は。
生け垣に突っ込んだ所為(せい)か、至るところに傷がある。薔薇特有の鋭い棘(とげ)に引っ掛かったのだろう。
優人は、志狼の足を持ったまま彼の顔を見下ろす。
「…………」
「兄ちゃん、あの……下ろし……て……」
「下ろしたら逃げるでしょうが」
冷ややかな声が降ってくる。
「……っ!」
……図星だったようだ。
「スケボーが見当たらないので、逃げ足は早くはなさそうですね。……良いことです」
「良くない!」
「ほう……見つかれば、どのみち叱られるのにですか?」
「ぐ……」
優人が志狼の足を持ったまま、にっこりと黒い笑みを浮かべる。
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