第1章

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【 モテ女にはカシオレを、非モテ女にはビールとネタを】 「合コン」。それは男女が各々の思惑を馳せる場。 その場限りの関係を模索する者もいれば、彼氏彼女を求める者、生涯の結婚相手を求める者と多種多様な目的を持った人間が集まる。 私も出会い目的として数々の合コンを経験してきたが、旧友を交えた合コンだけは「見る」目的に徹している。 異性の前とはいえ、かつての友人に「ぶりっ子」という偽りの仮面を見られるのは恥ずかしいからだ。 私と同じような悩みを抱え、普段以上にクールに演じてしまう女性も多いだろう。 しかしながらその一方で、周囲の目も厭わない猛者が存在する。 彼女の名前は別名「愛ちゃん」。高校時代からの友人だ。 愛ちゃんは合コンにかけては、プロを超越した巨匠である。 胸元が大きく空いた花柄ワンピースという衣装、チャームポイントのえくぼ、ゆるふわ巻きのロングヘアー。 全てが男子の心中を鷲掴みにする出で立ちであり、その気遣いはアクセサリーから爪まで細部に行き届いている。 しかし愛ちゃんが巨匠たる所以は外観ではなく、その行動。 彼女は注文を取る際に取る必殺奥義がある。 メニュー表から半分上目遣いの目を覗かせ、猫の困ったような顔で 「え~、どれも美味しそうで決めらんな~い(ハート)」 と甘い声を発する。 すると、隣に座る男は必ず「可愛い」と呟く仕掛けだ。 その効用は、宴の終始愛様に眼中が向いてしまう一時的なものではなく、 その後も個人的に繋がろうと男を無我夢中にさせる永続的なものである。 もはや呪いの範疇と言いたい。’ 初めてこの奥義を垣間見た時は、あまりの豹変ぶりに衝撃を受けた。 高校生の頃の「敵は皆なぎ倒す、バスケ少女愛」の面影は朧になり、目の前に居る女は「さと◯玉緒」の生まれ変わりなのかと目を疑った。 しかし今ではすっかり見慣れた光景となり、むしろビールを片手に彼女を観察する事に快楽を覚え、次の合コンはいつなのだと訪ねる始末だ。 時として愛ちゃんは、合コン前に「今日は明日ちゃん(私)のための合コンだから!影でサポートするから頑張ってね!」 と慈愛に満ちた言葉をかけてくれる。 私は満面の笑みで「ありがとう、嬉しい」と言い返すのだが、 一度たりともその言葉を信用した試しがない。image=494010299.jpg
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