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【シースルーな乙女心】
「験担ぎ」。良い結果に結びつくと勝手に思い込み、行う儀式。
私にとってこれに値するのが「下着」である。
試験や合コン、卒業式など、ビックイベント時には可愛い下着を着けるようにしている。
もちろん大学の入学式も例外ではない。
その日のために新調した下着は、大人の乙女心を鷲掴みにする黒レース、特にパンツの部分はシースルーと可愛さ満点。
当時は一人暮らしという事もあり、親の目を気にせず派手な下着を着けられる身分だった。
新品の下着をゆっくりと履く。
“なんと履き心地が良いのだろう。しかも可愛エロい!!
今日は絶対に良い日になるに違いない!!“
晴れ舞台が上手くいくように、と鏡に映る自分に願いを込めた。
時間もなかったので素早くスーツに身を包み、市営バスに乗り込んだ。
今日から大学生。キャンパスライフには、サークルでの恋愛や友情など凡ゆる希望が詰まっているだろう。
くだらない妄想を膨らませ、終始口元を緩ませていた。
無駄な時間はすぐに過ぎ去り、地元駅に到着。
すっかり舞い上がった私は、Suicaで運賃を支払い、颯爽とバスを降り立った。
“何もかも完璧だ”
駅ホームに入った時だろうか、後ろから視線を感じた。
チラッと見てみる。
小太りしたオヤジが、私を凝視しているのだ。
“なんだ?この変態そうなオヤジは?きっと可愛い私に見惚れているのだ‘
と男には失礼極まりないレッテルを貼り、自分には可愛い称号を与えた。
男はグイグイと距離を縮めきた。
それに驚き早歩きする自分。
さらに早歩きをして距離を縮めてくるチェイサー。
お互い同じやり取りを繰り返す。
しかし突如、謎の追走劇に終止符が打たれた。
しつこく追ってきた敵は諦め、スピードを緩めたのだ。
“私の勝利だ!やはり何もかもついている。ザマァW”と心の中でガッツポーズをした。
しかし敵だと思った男は思わぬ立ち止まったかと思うと叫んだ。
「すみません!あのパンツ見えてます!」
午前9時、人で賑わうホームに男の声だけが鳴り響く。
私は顔を後ろに向け、バックを確認した。
パックリと破れたスカートから覗くパンツ。
もはやシースルーパンツは下着の効用を失い、ありのままの体が露わになっていた。
“験担ぎはあくまで験担ぎ。良い事が起こるとは限らない。”
そう教えを説いたパンツは、初見の人におしりを見られた思い出と共に、タンス深く眠っている。
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