第1章

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【シースルーな乙女心】 「験担ぎ」。良い結果に結びつくと勝手に思い込み、行う儀式。 私にとってこれに値するのが「下着」である。 試験や合コン、卒業式など、ビックイベント時には可愛い下着を着けるようにしている。 もちろん大学の入学式も例外ではない。 その日のために新調した下着は、大人の乙女心を鷲掴みにする黒レース、特にパンツの部分はシースルーと可愛さ満点。 当時は一人暮らしという事もあり、親の目を気にせず派手な下着を着けられる身分だった。 新品の下着をゆっくりと履く。 “なんと履き心地が良いのだろう。しかも可愛エロい!! 今日は絶対に良い日になるに違いない!!“ 晴れ舞台が上手くいくように、と鏡に映る自分に願いを込めた。 時間もなかったので素早くスーツに身を包み、市営バスに乗り込んだ。 今日から大学生。キャンパスライフには、サークルでの恋愛や友情など凡ゆる希望が詰まっているだろう。 くだらない妄想を膨らませ、終始口元を緩ませていた。 無駄な時間はすぐに過ぎ去り、地元駅に到着。 すっかり舞い上がった私は、Suicaで運賃を支払い、颯爽とバスを降り立った。 “何もかも完璧だ” 駅ホームに入った時だろうか、後ろから視線を感じた。 チラッと見てみる。 小太りしたオヤジが、私を凝視しているのだ。 “なんだ?この変態そうなオヤジは?きっと可愛い私に見惚れているのだ‘ と男には失礼極まりないレッテルを貼り、自分には可愛い称号を与えた。 男はグイグイと距離を縮めきた。 それに驚き早歩きする自分。 さらに早歩きをして距離を縮めてくるチェイサー。 お互い同じやり取りを繰り返す。 しかし突如、謎の追走劇に終止符が打たれた。 しつこく追ってきた敵は諦め、スピードを緩めたのだ。 “私の勝利だ!やはり何もかもついている。ザマァW”と心の中でガッツポーズをした。 しかし敵だと思った男は思わぬ立ち止まったかと思うと叫んだ。 「すみません!あのパンツ見えてます!」 午前9時、人で賑わうホームに男の声だけが鳴り響く。 私は顔を後ろに向け、バックを確認した。 パックリと破れたスカートから覗くパンツ。 もはやシースルーパンツは下着の効用を失い、ありのままの体が露わになっていた。 “験担ぎはあくまで験担ぎ。良い事が起こるとは限らない。” そう教えを説いたパンツは、初見の人におしりを見られた思い出と共に、タンス深く眠っている。
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