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「ママ、大丈夫?」
メールを読みながら私の口に入れてくれた食事を私は吐きだしてしまった。
まさかそんなことがあるはずはない。
しかし、介護という言葉、それに万里子さんという呼び方。私にこんなことを言う人間など、一人の人間以外にありえなかった。
当然、沙紀は私の動きのない動揺には気付かず、メールをまた読みだした。
――暑いからってよく私に扇風機の風を当ててくれたね。首振り機能は使わずにいつだって固定、それも私たちしか家にいない時はいつだって強にしてくれた。涼しかったよ。
それに料理もだ。私が食べる以外に楽しみがないだろうっていつも私の料理だけ味を濃くしてくれた。いつだって塩や醤油味が効いていて美味しかったねえ。本当に感謝しているよ、万里子さん。
間違いはなかった。実際聞いているうちに沙紀が姑にすら思えてしまった。
身体の感覚をなくして以来、このような大地が崩れていく感覚は初めてではないか。寒気や恐怖という言葉では表しきれないこの感覚。
沙紀はメールを読むのをやめない。
――これから紗季ちゃんが介護してくれるんだってねえ。羨ましいよ。万里子さんが私にしてくれたような素晴らしい介護をしてくれると思うと嬉しいねえ。
その後まで読んでいたかは分からない。私はあまりの恐怖に気を失っていたようなのだ。
――万里子さん、元気かい? この前は突然にメールしてごめんね。すっかり驚いてしまったのか、返信もくれなかったようだね。ああ、そうか。返信ができなかったんだねえ。そうか、私より不便な体だったねえ、かわいそうに。
それ以来、姑からのメールは毎日続いた。返信などできない私に対して、毎日のようにケータイメールを送ってくるのだ。私は沙紀の声を通して元姑の声を聞く以外になかった。
どう考えたってあるわけがない。あの世からメールを送ってくるだなんてあり得ないこと。魂もなければ肉体もない。電波すら届かないあの世からどうやって送ってくるというのよ。
私が頭の中で否定し続けても、メールは届くのである。
そして、ある時にメールは言ったのである。
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