第1章

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――そういえば、万里子さん、知ってた? 死ぬ寸前に、まだ生きている人間と魂だけ入れ替えられることがあるって。その魂の入れ替えは、この世への強い怨念があるほど成功するらしいのよ。入れ替え先も小さい子供のようなまだ精神が弱い子の方が上手くいくの。 そのメールを聞いていた私が正気を保てていたはずもない。 私はやはり、料理をむせて吐きだし、視界の中にいる沙紀を凝視することになったのである。沙紀は、私の吐きだした流動食をゴム手袋とティッシュを使って取り除き、なおも私の口に食事を詰め込んできた。笑みもなければ怒りもない。 まさか、沙紀が? この子にあの人が乗り移っているとでもいうの? あの人がこの子の肉体を通して私に接していたというの? いくら否定して他のことを考えようとしたところで、世界が狭まった私に他のことを考える余裕などありえなかった。 「どうしたの、ママ。なんだかお顔の色が変よ?」 娘は言ったが、まともに聞けるはずもなかった。毎日こうしてメールを読み上げているけれども、この子は意味が分かって言っているのかしら。死んだ人間からメールが来ることがいかにナンセンスなことは理解しているのかしら。メールを読んで自分にあらぬ疑いがかけられていることを知れば普通は反論をしてくるはずだ。 考えれば考えるほど、娘のことを見られなくなってきた。 でも。 電波が届くはずもないと思っていたけれど、これなら納得がいくわ。だって、普通に使えばいいだけ。それならあの姑が思っていることを沙紀の体を通して打ち込むだけだわ。 当然、夫に相談できるはずもない。週に数回やってくるヘルパーにこの恐怖を打ち明けることすらできずに、私は時間を浪費させただけである。せめて体に傷でもあれば外部へのSOSとなるが、私の元姑がそのような直接的なことをするとは思えなかった。 外部へ救助も求められぬままに、さらに数日が過ぎた。娘を通した姑に直接的な体罰をされたことは一度もないものの、底知れぬ恐怖を味あわされて時が過ぎた。 そして、メールは私に対して言ったのである。
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