最後の日

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  「絵梨ー、やっと割り箸要らなくなるね」 友人の聖美がニヤニヤ笑った。 高校三年の三学期、卒業式を数日後に控えた2月。 進路もそれぞれに別れ、登校してくる者も日によってバラバラで、高校生活ももう終わりなのだという意識がじわじわと染みてくる時分。 安くて美味しい学食を卒業ギリギリまで堪能しようと教室から人が出ていく中、私と聖美は教室の窓際でお弁当を広げていた。 聖美には年子の弟がいるし、うちは父さんが事務職なので、互いに毎日お弁当を作る家庭だった。 どうせ作るならついでだからと、最後まで弁当を持たされて、人の少ない広々空間でお弁当をつついている。 「そうねー、ほんと参ったよ」 「いや、端から見てる分にはめっちゃオモロかったよ」 聖美はケラケラ笑いながら卵焼きを口に放り込んだ。 最後のお弁当は特別豪華ということもなく、いつも通りの卵焼きにほうれん草のお浸し、ひじきの煮付けとメインがミニハンバーグだった。 箸はちゃんと入っていたし、ご飯にはゆかりが振りかけてあって、何の問題もなく食べられそうだ。 「お父さんは被害ないの?」 「いや、会社の机の引き出しにマイ箸入れてるってさ」 「やっぱそうなんだ」 聖美はまたケラケラ笑った。 母さんのおっちょこちょいはいつものことだし、あれで気を付けようとはしているのだから、責めるよりも自分で対策を練った方がいいと考える私と父さんは、とても心が広いと思う。 「4月からは自炊かあ」 ウインナーを挟んだ箸を目の前にして、聖美が呟いた。 「そうだねー、聖美大丈夫なの?」 「いや、ダメだと思う」 家庭科の授業で卵さえ割れないという実態を披露した聖美の料理の腕に期待できるはずもなく、長めの春休みの間に猛特訓が待っていると彼女はため息をついた。 「絵梨はいいよね、料理出来るし」 「少しだけね」 笑いながらハンバーグの最後の一欠片を口に入れた。 「絵梨ママはやらかすけど料理はうまいもんね、そりゃ絵梨もうまくなるよね」 私も聖美も、実家を離れて新しい土地で独り暮らしをしながら、2年ないし4年を過ごすことが確定している。 手を合わせて「御馳走様」と呟いて、蓋をした。 ナフキンの端を摘まんだとき、カサカサと何かが擦れる音がした。 思わず聖美の顔を見ると、彼女は最後の珍事件を期待してか、目を輝かせて私を見つめている。 私は弁当箱を持ち上げた。      
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