素直になれない女

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“心配してる” たったそれだけのことなのに、こんなに嬉しくなるのはどうしてだろう。 「誰なんだよ、いい感じのヤローって」 「…藤次郎には関係ないよ」 それでも、可愛くなれないのがあたしなんだ。 「プライベートに口挟むつもりはねえよ。ただ、」 「…なに?」 「彼氏できたんなら、俺とは会えねえだろ」 「…そうだね」 「どうする?もう、会うのやめるか?」 狡い。あたしに選ばせるなんて。 「…っ…あ、たし…」 ヤバい。 泣くな、泣くな、泣く… 「っとに…泣き虫」 ふわり、と大きな掌が、あたしの頭に乗せられた。 優しく撫でてくれるかと思えば、 「素直じゃないとこも可愛いけどよ、言わなきゃ伝わらねえことだってあるんだから」 髪の毛がクシャクシャになるぐらいの、撫でるのとは程遠い強さで頭を叩かれた。ワックス、つけてるのに。 「お前が俺を切らねえ限り、俺からお前を切ることはしない」 「だっ…て、眞由美さんと結婚したらっ…」 「サミシーんだよ」 藤次郎の口から出てくるにはおおよそ似つかわしくない、可愛い台詞。 「お前と離れんの、寂しいし、全く会えなくなるのは、正直かなりキツい」 どうして今、このタイミングで、その台詞?せっかく、忘れようとしてるのに。 「お前がどうしてもっつーんなら、解放するよ。相手の男のこと裏切りたくないなら、それも納得」 狡い。 「お前が選べ」 狡い。 「俺か、そいつか、両方か」 藤次郎は、やっぱり狡い。 「と…じろ…がいい」 藤次郎を忘れるために、他の誰かを想おうとしてる。 でも、まだ忘れられないから藤次郎に縋ってしまう。 だからあたしは、どっちも選べない。 だからあたしは、どっちも選ぶ。
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