123人が本棚に入れています
本棚に追加
“心配してる”
たったそれだけのことなのに、こんなに嬉しくなるのはどうしてだろう。
「誰なんだよ、いい感じのヤローって」
「…藤次郎には関係ないよ」
それでも、可愛くなれないのがあたしなんだ。
「プライベートに口挟むつもりはねえよ。ただ、」
「…なに?」
「彼氏できたんなら、俺とは会えねえだろ」
「…そうだね」
「どうする?もう、会うのやめるか?」
狡い。あたしに選ばせるなんて。
「…っ…あ、たし…」
ヤバい。
泣くな、泣くな、泣く…
「っとに…泣き虫」
ふわり、と大きな掌が、あたしの頭に乗せられた。
優しく撫でてくれるかと思えば、
「素直じゃないとこも可愛いけどよ、言わなきゃ伝わらねえことだってあるんだから」
髪の毛がクシャクシャになるぐらいの、撫でるのとは程遠い強さで頭を叩かれた。ワックス、つけてるのに。
「お前が俺を切らねえ限り、俺からお前を切ることはしない」
「だっ…て、眞由美さんと結婚したらっ…」
「サミシーんだよ」
藤次郎の口から出てくるにはおおよそ似つかわしくない、可愛い台詞。
「お前と離れんの、寂しいし、全く会えなくなるのは、正直かなりキツい」
どうして今、このタイミングで、その台詞?せっかく、忘れようとしてるのに。
「お前がどうしてもっつーんなら、解放するよ。相手の男のこと裏切りたくないなら、それも納得」
狡い。
「お前が選べ」
狡い。
「俺か、そいつか、両方か」
藤次郎は、やっぱり狡い。
「と…じろ…がいい」
藤次郎を忘れるために、他の誰かを想おうとしてる。
でも、まだ忘れられないから藤次郎に縋ってしまう。
だからあたしは、どっちも選べない。
だからあたしは、どっちも選ぶ。
最初のコメントを投稿しよう!