素直になれない女

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「じゃ、今日はこの辺でお開きに…あとはお好きにどーぞ」 「お疲れ様ー」 居酒屋を出て各々が自由行動を始める中、あたしの足は自然と一人の人物へと向く。 「…また、会えますか?」 「嬉しいな。俺も今、訊こうと思ってたとこ。これ、名刺…っと…」 名刺を差し出した左手を一度引っ込めて、白紙である裏側にペンを走らせる。 「番号とアドレス。メールでも電話でもして。表の番号は社用の携帯だから」 「あっ…たしも…」 急いでバッグを探り名刺を探そうとする。 と、 「君の名刺は、次に会ったとき。今もらうと、俺から連絡できる可能性が生まれちゃうでしょ」 「え?」 「君の方から連絡がほしい」 慣れてそうな女性の扱い。今まで何人泣かせてきたのかな、とか、実はもう結婚してたりして、とか。 良からぬ思考が頭の中をぐるぐる回るけど、真里があたしを合コンに誘ったときの言葉をふと思い出し、なるほど、と頷く。 “絶対に由宇のタイプの人がいるって” 間違いない、この人だ。 藤次郎とはタイプの違う男前。 切れ長の目元に、泣き黒子。薄い、とは言えないけれど、どちらかと言えばそちらの部類の顔立ち。 全てのパーツがはっきりとした藤次郎の顔とは、正反対。 元々あたしは、こっち系の顔が好きだし。 「今度は、昼ご飯でも一緒しよう」 「はい」 小さく手を挙げて去っていく後ろ姿を、あたしは見えなくなるまで見送った。 隣でニヤニヤと顔を崩す真里に気づかないフリをして。 一七五センチ前後、といったところか。 藤次郎より、少しだけ高くて細身。 そして、さっき気付いた。 左利き。
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