序章 英雄召喚

2/12
前へ
/16ページ
次へ
洞窟の最奥。来た道しか出口はなく、少女は最後の手段を試みる事を決意していた。 全身には擦り傷や火傷の跡がいくつも残っており、腰辺りまで伸びた透き通るような水色の髪と身に纏った白のローブは戦闘のせいで少し汚れてしまっている。 「まさかこんな所で使う事になるとは……失敗しないといいんですが……」 愚痴を言うように小さく呟いた少女は最後の手段の準備を始めた。チョークを取り出し、複雑な魔法陣を書いていく。 数分が経ち、後は発動を残すのみ、といったところで少女の動きがぴたりと止まる。 「……来ましたか」 「おいおい、こんな所まで逃げてんじゃねえぞ。世界最高峰の魔術師の名が泣くぜ?」 声がする方向を少女が見れば、そこには先程から少女を追ってきていた男がいた。黒の軽鎧に身を包んでいる男は少女とは容姿がかなり異なっており、頭部に生えた二本の黒い角、背中に生えた同じく二対の黒い羽、が少女と種族が違う事を表していた。 「そちらこそこんな所まで追ってきてんじゃねえぞ、ですよ。魔界最高峰の部隊の一兵卒の名が泣きますよ、魔族さん」 からかうように少女が言葉を返すと魔族の男は苛ついた様子で舌打ちをうつ。 「ああ? 舐めてんじゃねえぞ、人間如きが。速攻で消してやっから動くなよ?」 言うと同時、男は右手から炎を勢いよく放出する。そして、放出した炎を球体に変え、少女に向けて放った。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加