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「お祖父様。お祖父様の理論が正しい事、今、私が実証してみせます」
腰に巻いているポーチから少女は古そうな小さいナイフを取り出せば、右手に持つ。ナイフは装飾もなく素朴な物だったが、その刃は刃こぼれや錆一つ見られない。
取り出したナイフで左手の人差し指を軽く切る。指先から血が滴り落ち、足元の魔法陣に触れた。
直後、青く光っていた魔法陣は赤く輝き出す。その異様な輝きに炎の球体化を進めていた魔族の男は驚き、思わず作業を止めそうになる。
「なんだあれは……?」
「異界の英雄よ。我が言葉を聞き入れたまえ。異界の英雄よ、我が願いを叶えたまえ。我が呼び声に応え、我が意思に集え」
「……この魔力、いや、この力は…… ちっ、させるか!」
赤い光が強くなるのと比例して増加するのは少女の魔力、ではない。尽きかけていた魔力とは別の力、命を削り生み出される力、生命力である。
その増加する力に焦りを感じた魔族の男は八割程完成していた未完成の炎の球体をそのまま放つ。未完成とはいえ、何かをしようとして無防備な少女を殺すにはこれで十分だと判断したからだ。
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