20101010銀誕小話

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何せ今置かれてる状況が違う。普段は喧嘩ばかりで相手も自分も真っ当な"コミュニケーション"とやらをとったことがなかったからだ。 「…祝いたかった」 「は?」 土方の声色が変わる。先程までの投げやりなものではなく、諦めたような声だ。 「お前には、随分世話になったからな。生まれた日ぐらい素直に『おめでとう』と言ってやりたかったが、お前は俺から祝われたりプレゼントを貰ったら気持ちが悪いだろう」 「……」 土方とは今まで喧嘩した記憶しかない。確かに、そんな土方から『おめでとう』と言われプレゼントなんて貰ったら驚くしかない。が、気持ちは果たして悪くなるだろうか? 「要らねえよ、そんなん」 「っ…だろう、だからもう」 「『世話になったから』なんて義務的な理由なら要らねえ」 こんなに弱い背中をした土方を見たことがない。だから俺は誠心誠意コイツの気持ちを受けてやりたいと思ったのだ。 「大体お前のさっきの顔、それだけの理由なツラじゃなかったもん。せっかく素直になろうと思ってくれたんだろ?だからはい、どーぞ!」 陰鬱だろう土方の心を解きほぐしてやろうと俺が掛け声を出すと土方は一瞬躊躇ったように肩を震わしたが意を決したように振り返り、何故か泣きそうなツラのまま言った。 「…誕生日、おめでとう。と、…生まれてきてくれてありがとよ」 「……そんなに?」 「は?」 生まれてきてくれてありがとう、とは…つまりコイツは俺のことをかなり好意的に見てたってことか? 「あ、いやそのだなぁ…」 「…好きだ」 「!」 「だから、言葉だけ伝える。お前に惚れてる男から貰ったプレゼントなんて、それこそ気持ちわる…」 「いやいや待てって」 どうしてこの男はこんなにも自分を貶すような言葉ばかり言うんだ。つまりあれか、いつからか解らねえけど俺に惚れて、今日が誕生日だと知ったから『世話になったから』って理由くっつけて祝おうとしたけど俺が嫌そうな顔をしたんでやっぱり自分は嫌われてるだけだと思って諦めて帰ろうとしたとか、そんなところか。 なんだよ、普段ツンケンしてるくせにこんな誠意…うわ、やばいよそれは。
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