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俺の携帯にメールを知らせる着信音が流れた。
メールの送り主の名は神崎龍也。
俺の名前も神崎龍也。
俺は首を傾げながらメールを開いた。
『俺はお前だ。正確に言えば二十年後のお前だ。
俺は最近刑務所から出所してきた。俺は罪を犯した。人を殺したんだ。俺が殺したのは妹の波瑠。つまりお前の妹の波瑠だ。お前は今から五分後に部屋を飛び出し、台所へ向かい包丁を手にする。そして寝ている波瑠の腹を突き刺す。自分の意志とは無関係に誰かに操られているような感覚だった。頼むから今から自分をロープか何かで動けないようにしてくれ。頼む、俺は波瑠を殺したくないんだ。』
くだらねえ、誰のいたずらだ?
俺は胸糞が悪くなり、携帯をベッドの上に投げ捨てる。
「…お兄ちゃん」
後ろから蚊の鳴くような小さな声が聞こえた。
俺は慌てて振り返る。
目の前には俯く波瑠の姿があった。
手には包丁が握られている。
「ど、どうした波瑠!?」
「……うふふ」
俺の問い掛けに波瑠は微かに笑う。
そして波瑠は自分の腹に包丁を勢い良く突き刺した。
「波瑠!」
波瑠は笑みを浮かべ、突き刺した包丁をこねくり回す。
俺は波瑠の腕を掴み、その異常な行動を止めさせようとした。
しかし波瑠の腕は岩のように微動だにしない。
俺はそれでも必死に波瑠の腕を掴み続けた。
すると波瑠は包丁から手を離し、俺の手の平を掴み始めた。
そして俺の手を動かし始める。
俺の手の行き着いた先は、波瑠の腹に突き刺さる包丁の柄の部分だった。
そして俺は波瑠の手によって包丁の柄を掴まされた。
俺が包丁の柄を握った瞬間、波瑠の腕はたらりと離れ、力無く後ろに崩れ落ちる。
床に寝そべり動かない波瑠の前で俺は血だらけの包丁を握っていた。
運命は変えられない…
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