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わたしの兄は、神様のような人でした。
よっつ年上の兄は、本来ならジュニアハイスクールに通ってる年齢ですが、カレッジスクールの方に通っています。講義を受ける方ではなくて、する方ですが。
「みぃどりちゃん!」
「わ、びっくりした!なぁに?」
どーんと後ろから抱きついてきたのは、同じクラスのあずさちゃんでした。にっこり笑いながら、わたしの手元を除き込みます。
「なにやってるの?」
「ええと、知恵の輪」
かちゃ、と手の中で金属が擦れ合う音がしました。どうにも、この音は苦手でなりません。
「へぇー……って、なんか、難しそうなのやってるね?あずさは、そんなのやったことないよ」
「うーん……まぁね」
かちゃかちゃと、あちこちのぞきこみながら、金属の輪っかを弄ります。この知恵の輪は、ねじれた金属の輪っかが十三個連なっていて、どれかを外せると全部バラバラになるらしい、のですが。
「だってわたし、これ二ヶ月はずっとやってるもの」
「二ヶ月!?」
「そう、二ヶ月。ずうっとやってるんだけど、解けなくて」
へらり、と笑ってみせましたけど、その笑顔はあずさちゃんには違和感として写ったようです。
「うーんと……あずさね、お母さんに言われて十歳対象の知恵の輪ぜーんぶやったよ。それ、なかった気がする」
「これ、十五歳対象だよ」
くすり、と笑って知恵の輪の輪っかを少しだけ弄ってみました。解けない。
「え、十五歳対象……?」
「うん。やっぱり難しいねぇ……」
知恵の輪、は、子どもたちの脳の活性化に最も良い玩具として国から推奨されています。この国で、知恵の輪を触ったことのない子どもは、きっといない。
年齢別に別けられた難易度の知恵の輪は、全ての種類が家に揃えられています。
「十歳対象もするけどね……お母さんが満足してくれないから。しょうがないの」
「でも十五歳対象なら最高難易度じゃないの。過度な子どもへの期待や学習は駄目って、国からお手紙来てたって、あずさ、聞いた」
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