げんじつのはなし

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あずさちゃんは、なんだかとても心配そうな顔でわたしを見ました。 「大丈夫?」 「大丈夫。……あ、授業はじめるよ。行こう?」 「……うん」 にこにこと、わたしは笑います。 ねぇあずさちゃん、それ、生まれてからずっとだよって。 過度な期待や学習は生まれてからずっとだよって。 そんなこと言ったらどうなるのかなぁ、と思いながら、あずさちゃんと手を繋いで教室へと向かうのでした。        * 「ただいま帰りました」 玄関のドアを開いて、声をかけました。靴は、二つ。母と兄のものです。 「みどり、おかえりなさい」 「はい、お母さま。ただいま帰りました」 髪をきちりと一つにくくった母が、キッチンから出てきてわたしに言いました。笑顔、無し。いつものこと。 「みどり、知恵の輪は出来た?」 「……いいえ」 ぱんっ、と頬を叩かれました。痛み。そして、爆発するのは、母の怒鳴り声。 「なんであんなものができないの!?あんなに、あんなに簡単なのに!!あなたの兄が知恵の輪を全部解いたのは六歳よ!ねぇ!なんであなたは出来ないの!?何故!!」 「……ごめんなさい……」 「ごめんなさいじゃないでしょう!?」 「みどり、おかえり」 静かに落ちてきた声は、神様のような、兄のものでした。 「なにをしてるの?みどり」 「……なんでもないわ。あなたは部屋にいなさいな」 母がそう答えました。わたしは、ただ黙って床を見つめました。 「母さんには聞いてないよ。みどりに聞いてるんだよ」 「……なにもしてないです。お兄さま」 「お兄さまってなにそれ。変なの」 「……ごめんなさい」 「謝れなんて誰も言ってないんだけど」 「……はい。……部屋に、います」 ごめんなさい、を飲み込んで二階の部屋に行きました。あぁ、もう、やだなぁ。なんて。 生まれてからずっとこんなんだよ、なぁんてね。
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