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「おい、香澄」
次の日になって、突然雅史に声をかけられる。
「何?」
「お前、慶久と付き合うの?」
いつの間にその情報を仕入れたのか。
いや、まず語弊がある。
「付き合う『フリ』ね」
昨日、慶久君に『恋人ごっこ』をしてくれと頼まれた。
彼は演劇サークルに入っていて、今度の役でどうしても悩んでいるから、と。
それを雅史に説明すると、雅史は眉根を寄せる。
「あいつなら恋人の一人や二人くらい…」
「それが意外なことに、ないらしいよ」
今まで誰かと付き合ったことがなく、こんなことを頼めるのは私しかいない、と言われたら断る理由がない。
慶久君が誰とも付き合ったことがないっていうのはとても驚いた。
まあ、告白なら何回もされているだろうけど。
「でも、わざわざ香澄がやる必要ないだろ」
「私がいいって言ってるんだから別にいいじゃん」
あんなに申し訳なさそうにされたら、断れるわけがないし。
普段お世話になってるもの。
少しくらい役に立ちたい。
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