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私が近づくにつれて、周りの何人かが私の存在を視界に収める。
「正妻が来た」
「よかった、これで助かった」
小声で言っているつもりだろうけど、思いっきり聞こえる。
正妻ってなによ。
雅史の妻になった覚えなんて微塵もない。
私に気付かずまだ言い争っている二人の後ろに立ち、息を吸う。
「あのー、ココで言い争うのやめてくれません?」
あくまでも穏やかに、かつ少し威圧感を含ませて言う。
普通だったら、私みたいなただの幼馴染の分際の、地味な女にこんなことを言われたら、かえって騒動が大きくなるものだ。
だけど雅史の周りの問題に関しては何故か違う。
「か、笠原さん!ごめんなさいっ」
「香澄ちゃん…ごめーん」
こうやってなぜかあっさりと退いてくれるのだ。
お陰で周りからは『正妻』なんて呼ばれてしまう始末だ。
本当に最悪。
「いやー、助かったよ」
雅史が悪びれもなく私に笑いかける。
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