酷く美しく暴力的な世界の裏側には、

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<17年前、ドイツのとある屋敷> 「あんたはどうやら頭が良すぎたみたいだね」 唐突に聞こえた声に窓の外から視線を外すと、ドアに凭れ掛かる人影に気付く。 長い髪を揺らす女に「いまさらか」と返せば、「それもそうね」なんて言って人を喰ったような笑みを浮かべた。 「あんたももう五歳だもんね。まあ、五歳児にしちゃああんたは賢しすぎるけど」 「わるかったな、かわいげのないがきで」 「別に悪くなんかないさ、ただ異端なだけで」 「………」 「あんたは頭が良すぎるからね、その年でもう己にとって有益か無益か、必要か不必要かを判ずる事が出来るだろう?其処ら辺の餓鬼はまだ鼻水垂らして遊びまわってる歳だろうに」 誰に似たんだか、と言う声にあんたが産んだんだろ、と返した。 そうだねえ、とくしゃりと目元を緩め穏やかに苦笑する様はどこか違和感があって。 居心地の悪さに「なんだよ」とぶっきらぼうに問えば、「まあ、心配ってよりかは責任ってとこが一番近いんだろうね」と答えにならない回答が返ってくる。 「あんたを産んだのも育ててんのも今のところは一応あたしだからね。これでも責任感じちゃったりするのさ。いつかあんたの非凡過ぎる優秀さを知った誰かが、あんたをどうするのか。殺すのか、使うのか、それがちょっと気になるね」 「…いちおうははおやのくせに、ごさいじになにいってんだ」 「ふふ」 どこか浮世離れしたこの人は確かに母親らしさなんて皆無だけど、それでもやはり母親なんだろう。 続く言葉に確かな愛情を感じ取ってしまうくらいには。 「ーーークラウス、どうか優しくありなさい」 久し振りに呼ばれた名前にピクリと肩が揺れる。 さっきからどこか様子の可笑しい母の様子に異端児といえどもまだ五歳な俺は何も言えずに。 妙に真剣で儚い笑みを浮かべる癖に口調は強くて、そのアンバランスさにひっそりと息を詰めた。 「賢いあんたからしたらこの窮屈な世界は酷く馬鹿らしく思えるかもしれないけれど、あんたの異端さを人は化け物だと蔑み拒絶するかもしれないけれど、それでも人間であり続けなさい」 そしたらきっと、と母は珍しく、柔らかいまるで母親のような慈愛に満ちた笑みを見せた。 「人はあんたを受け入れてくれるよ」
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