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ーーー笑ったランに悪態をついていたあの頃は、まさかこんな風になるだなんて想像もしていなくて。
ーーーでも、きっと、これもこれで正しい在り方なんだろうなんて、
ーーーそんな風に、俺はまた胸中でひっそりと溢すんだ
「クラウスさんは、昔からなんだか焦げ臭い匂いがするよ」
「…」
「何故そんな匂いが染みついたんだろうね?なんて、無粋なことは聞かないんだけどさ」
ーーー廊下で偶々出会ったユンに軽い気持ちで喧嘩を売った結果がこれだ。
いつもの作り笑いよりも幾分か意地の悪い笑みを浮かべるユンを睨みつける。
なんで俺の過去を、なんてありきたりなことは聞かない。
ただユンの口から出た言葉に思っているより動揺してしまったことに対する苛立ちを少しばかり目の前の男にぶつけるだけで。
「…ハッ、随分と鼻がいいんだな」
「嘘つきの匂いが分かる君程じゃないけどね」
「……っち。ユン、お前昔に比べて可愛げがなくなったんじゃねえか」
「クラウスさん俺の昔なんて知らないくせに勝手なこと言わないでくれる?それとも化け物並みの頭脳を持つと名高い参謀殿は知らなくてもわかっちゃうのかな。だとしたらそれは空恐ろしいことで」
でもそんなに色々と分かってしまうなら、君にとって世界は酷く退屈なんだろうね
ーーーーああ、だとしたら君は。とても、とても、可哀想だ。
どこか吐き捨てるように言い捨てたユンにそっと近好き、案外白い首筋に左手を添える。
憐れむような目が本気で目障りで、このまま爪に仕込んでいる毒針で殺してしまおうかだなんて物騒なことを一瞬考えた。
「殺さないんだ?」
「…いつかお前が、目的を果たして本当に孤独になったとき、」
「……」
「その時には、遠慮なんかしねえで俺がこの手でお前を殺してやるよ」
お前が死んでも悲しむ人が居ねえなら、その時は遠慮せず殺れそうだ
人に優しくしろと言った母の言葉には背くことになるのだろうが、それでも復讐を果たしてユンが生きる目的を失くしたら。
このいけ好かない男にとっては俺の殺意だろうと案外甘いものに映るんじゃないだろうかなんて。
そんなことを考えて静かに目を細めた俺と同じように笑ったユンに背を向けて、俺は足早に自室へと戻っていった。
Fin.
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