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「ごめんな」
そう言いながら、優しく彼女の頭をなでる。
言われた彼女は、意味を理解しているのか、していないのか、ただ、ただ、幸せそうに目を細めた。
俺と彼女の付き合いはもう何年になるだろう。
俺がまだガキの頃からだから、十年以上はあるはずだ。
あの時は、俺と彼女。
そして、もう一人、アイツがいた。
三人で汗だくになりながら遊び回った日々。
町一番の高さに掲げられた鯉のぼりや、青空を真っ二つに割るひこうき雲なんかを、原っぱに寝転んでみた日々。
ずっとそんな日々ばかりが続くと思っていたのに、それは唐突に終わりを告げた。
中学を卒業してすぐ、アイツは、
「大きくなって帰ってくる」
そう言い残して町を出て、結局、未だ帰ってこない。
そして、今日、俺もまた町を出る。
残念ながら、アイツのように格好いい言葉はなく、借金で住む場所を追われるという、情けなさ。
彼女もまた、俺と時を同じくして町を出る。
但し、こちらは借金の返済のため売られた身。
これから彼女にどんな未来が待ち受けるのか、想像に難くない。
せめて、薬で楽になるのだろうか?
それとも、それは色々よろしくないから、そのままされるのだろうか?
これから待ち受ける彼女の未来を思い、再びこの言葉が漏れる。
「ごめんな」
俺が不甲斐ないばかりに。
俺じゃなく、他の所にいってれば、こんなことに巻き込まれなかっただろうに。
ーーほんとうに、ごめんな。
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