第1章

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「!?」 割り箸が入っていた袋で遊ぶのが彼女の癖。 器用にいつもなにか作っては店に置いていく。 おれが店員ならけっこう、いや相当いやだ。 いまもなにか作っていた手を止めて、鳩豆顔をしてる。 「なんでなんで!」 「なんで?」 「なんで落ち込んでないと思った?」 「…こどもみたいだよ」 「こどもでいいよ!はい!Say!」 「なんとなくだよ」 ちぇっと言って彼女はまた白ワインを注文する。 「Youなに呑むのさ」と空いたグラスを指す。 『そういうぶっきら棒な気遣いがいつもどおりだから』 「もうさ…恋愛終わったからこの世界も終わった! なんて思っていい年じゃあないのよ、あたしたちは」 「そうだね」 「二十…」 「なな」 「七にもなったら立派な大人なのよーわかる?」 わかる?なんて言いながら2cm程の鶴を寄越してくる、 人間ははたして大人なのだろうか? 「スモールワールド終了でーす」 彼女はきっとわざと聞こえないように、 白ワイン2杯を運んできた店員の声と重なるように言った。 会話は仕事のはなし、近所のノラ猫のはなし、 アイドル熱愛発覚のはなし、いろいろ話した。 100%彼女の持ち込み企画なのは、いつものこと。 持ち込んだと思えばいつの間にか違う話題なのも。 散々話して一服挟むのも、いつものこと。 「じゃあさ」 「なんだい、青年」 「おれと別れる時は落ち込む?」 「後ろ髪なくなるまで引っ張られたら落ち込む」 「ふーん、ふふっ」 「なにー?」 「いや、ふふっ」 彼女がスーツの裾をちょんっと1度引っ張る。 犯人に目を向けると悪ガキのように舌を出す。 女心というものはよくわからないが、おそらくは。 「スモールワールドに住民票うつしたいんですけど」 住民税バカ高いよーけけけっ、と笑いながら、 またスーツの裾をつまんでいる。 (The world is not) end.
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