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目の前で起こったその出来事が衝撃的で、全ての音が消えてしまったような気がする。
血の気が全身から引いたような感覚の中、飛び出すときに落としたのだろうか、彼が持っていた携帯の画面が、まるで私に見せつけるかのようにぱっくり開いて私を見ていた。
……一歩、足を後ろに下げる。
跳ねる心臓が私の命令を聞かず、どんどん強く波打ってきた。
血の気が引いた寒気だろうか。身体の震えが止まらない。
ついさっき私に届いた差出人不明のメール画面が、目の前のヒビ割れた画面に映っていることがどうしようもなく恐ろしかった。
音が戻ってきた周囲が騒がしくなる。
真っ赤に染まった道路から少しでも距離を起きたくて、へたり込みそうになる足を擦るように後ろへ下がった。
彼が助けようとした男の子は、対岸の誰かがぎりぎりで捕まえたようだ。母親らしい女性に抱きしめられながら泣いている。
つぅんと気分が悪くなってくるような鉄の匂いが広がってきて、嗚呼これが血の匂いなのだと脳が判断したとき、とうとう私はその場から逃げ出すべく道を引き返すように走りだす。
知らぬ間に手に持っていた物を強く握っていた。
思考を支配するのは、ただただ「逃げなきゃ」と襲ってくる強迫観念。
今こうして逃げている行為を止めてしまえば追いつかれてしまうような、そんな根拠も何もない恐怖が私を急き立てる。
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