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―――――逃げなきゃ。
……何から?
―――――捕まってしまう。
……何に?
そもそも何処に逃げればいいのか。
なんてどうしようもないことを考えた時、唐突に頭の中が冷静になった。
…そうだ、逃げるといっても何処に逃げるというのか。安全なところと言われてもどこだったら安全といえるのかが解らない。
どこまで逃げたって追いかけてくるのかもしれない。どんなに遠くに逃げようと逃げ切れないのかもしれない。
逃げようとしている“ナニカ”が分からないままでは判断のしようもないし、もし逃げたとしても逃げてどうするのか。
「――――わから、ない」
分からない、
判らない、
解らない、
わからない、
ワカラナイ――――。
頭上の影が軋んだ気がした。
混乱した頭でゆらりと顔を上げれば、錆びて朽ちた金具が千切れて、落下してくる大きな店の看板。
ぼんやりとした瞳が、看板に書いてある店の名前を映すことはついぞなかった。
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