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「この本さ、どこに売ってんの?」
彼がその言葉を私にかけたのは、ちょうど秋の、すごく冷たい風が部屋に差し込む、朝方のとても穏やかな時間帯だった。
「えっと、何処だったかな?忘れちゃった。適当に入った古本屋さん…かな?」
私は少し乱れた自分の髪をさらにくしゃくしゃにしてみた。
焦りを、自分の表情の変化を、髪の毛に視線がいくようにして隠したかったのだ。
「へえ。続きとか、あんのかな?1って書いてあるし、きっとあるよな、これ。」
「そうだね。あるんじゃないかな。でもそれ、ほんとに隅っこにあったやつだから、もう廃盤かもね。」
「そうなんだ、残念。面白かったのに。こういうのがさ、なくなっていくから、世の中ほんと理不尽だよな。良いものはさ、しっかりと残していかないと。それが一番大切な事だろ。俺はそう思うんだけどな。」
「そう…だね。」
その本は、私が自主出版した作品で、それは残り一部で、それは自分用に取っていたもので、私はその言葉で、全てが全部救われたような気がした。
メールやレビューでくるネット上の文字での評価は確かに嬉しかったが、直接言われる感想がここまで嬉しいとは、正直私には夢にも思っていないことであり、私は純粋にその言葉が嬉しかった。
たとえあなたが、何気なく発した言葉だとしても、私に、小説家を目指していた私には、とても嬉しかったのだ。
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