覚えてる。

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「面白かったよ。お前の小説。それだけは、よく覚えてる。」 「え。」 「あれ、お前のだったんだろ、前に読んだあの、タイトル忘れたけど、表紙はよく覚えてるよ。花柄のすごく印象的な色だったから、良く覚えてる。」 「薔薇だよ。」 「そうだな。良く覚えてる。綺麗だったから。内容もちゃんと、だからそれだけはまじで覚えてるんだ。」 「そうなんだ。」 私はまた、この人の言葉に振り回される。この人の態度に振り回される。 それでもいいと、少しだけなら、それでもいいと、思ってしまう。思ってしまった。 「亮ちゃん。」 私はまた、この人の名前を呼んだ。 「何だよ。」 「私の名前、覚えてる?」 私は、可能性を信じた。少しでもいい、ちょっとでもいい、名前のひとかけらでも覚えていてほしいと、思ってしまった。 「ごめん。」 「やっぱり、外すの止めますね。」 「おい!待ってって…おい!」 どうやら夜は、これからのようですね。
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