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「フハッ、五歳にしては随分と流暢に話すね。全然気ー遣わないでいいから。敬語は無しで」
「……わかった」
俺は神妙な顔で答えた。
俺に馴れ馴れしく絡んでくる奴は滅多にいない。その為少々落ち着かない。
シモンはクスクス笑って、
「色んな意味で年不相応だねェ、君。まぁ、期待されてるだけはあるかな」
「え、俺期待されてんの?」
何ソレ初耳。
「うん。それで、腕試しついでに手合わせ願いたいんだけど」
「面倒くさい」
「まぁまぁ、そう言わずに。ウチにも大人の事情があるんだよ」
腕を引っ張られ、そのまま訓練場の中央まで引き摺られる。
定位置に移動したシモンは、師範代が寄越した竹刀を構えた。対するに俺は素手。
「君はまだ歳も歳だし魔力慣れしてないだろうから、魔法は一切使わずやろう」
「審判は私が」
師範代もすっかり乗り気だ。
「はぁ」
気のない返事を返す俺。
引き返そうとしたら、殺気で足縫いつけられた。ひぃ。これだからヤクザは嫌いだ。
仕方なく、適当に構えを取る。片足を半歩後ろに引き、両手を腰の前に垂らす。拳は握らない。開手だ。
静寂が辺りを覆う。
周囲の人間は、いつの間にか場内の隅っこで、遠巻きに俺らを見ている。観戦する気満々だ。これは後に引けない。
「始めッ」
審判の声が静寂を打った。
同時、シモンが床を蹴る。
「!」
俺は反射的に半身を左に傾けた。右肩を電撃にも似た何かが掠る。
身を翻し、背後の敵に腕を伸ばす。が、僅かに遅かった。竹刀が腹にめり込み、一瞬呼吸を奪われる。
「がっ」
吹っ飛ぶ小さな肢体。
右袖が裂け、鮮血が散る。
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