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床に接触する。俺は片手両脚を突っ張り、勢いを殺した。
と、頭上に降りかかる刺突。
身をひねって避ける。次いで片手を軸に下段回し蹴り。
足を掬われた敵はバランスを崩す。当然、その隙を見逃す筈なく。
逆側から竹刀を掴み、柄先で下腹を穿った。
敵の顔が苦痛に歪む。
その隙に、俺は身軽な所作で跳ね起きた。
頸筋めがけ右手刀を振るう。
鈍い音響。掌に跳ね返る痛撃。
竹刀で防がれた。
硬直化した俺の横っ面に、影が唸りをあげて迫る。咄嗟に左腕でガード。
鋭い打撃が前腕を捉える傍ら、右腕首が敵の鳩尾に潜り込んでいた。
敵の身体がくの字に曲がる。
好機とばかりに蹴り上げるも、追撃は止まった。
軋む骨肉。締めあげられた脛が、悲鳴を上げる。
捕まった。
冷や汗が顎を伝う。
逆立ちの姿勢で動きを封じられた俺は、手が自然と力むのを感じた。
一泊間を置いて行動に出る。
腕を交差し体ごと回転、敵を振り払う。彼は口笛を吹いた。
バク宙で二歩間合いを開け、着地。
すかさず視界の端を影が掠めた。
半身を右に傾ける。
耳元で物体が空を切る音がした。
背を屈め。後方に逸れ。頭を垂れ。重心を前後左右斜めに傾け、左足を引いて身を開く。その度、竹刀の突先が皮膚を掠めるが、致命傷には至らない。
速攻が飛んだ。
回避不可と踏んだ俺は、両腕で受けた。
発火しそうな痛みと痺れが回る。
そのまま弾かれ、数メートル後ろに跳んだ。
目にも止まらない攻防に、声も出ない様子だった観衆が、ここにきて初めてざわめく。
口元に滲む血を、無造作に拭う。
「強いね」
シモンが話し掛けてきた。
「……」
俺は何も応えない。敵のつけ入る機会を伺っている。
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