死亡なう

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「危ないッ」 ドンッ、と。誰かが俺の背中を押した。 瞬間、すうっと意識が遠のき、世界がスローモーションになる。 路端に投げ出された子供。 けたたましいブレーキ音。 背で弾く衝撃の余波。 悲鳴。どよめき。浮遊感。 見慣れた男の顔を捉えるや否や、視界を闇が覆った。 ……此処は、どこだろうか。 息苦しいほど真っ黒な世界で、ふと脳裏に疑問が過った。 温かな闇越しに、微かな物音が聞こえる。 試しに手足を上下に振ってみたが、上手く動かせない。暗く狭い、不自由な空間。 そして、この謎の空虚感。何か大事なことを忘れているような気がする。俺は、やたら重い頭を捻って、思案に耽った。 そこで、フラッシュバックが脳内を巡る。 見慣れた男の顔を最期に認めたところで、映像は止まり、記憶が霧散した。 そうだった。思い出した。 俺は車に轢かれそうな子供を助ける為、道路を飛びだした。根拠も何もないが、何となく間に合いそうな気がした。直感が働くと同時、動いていた。 実際子供は救えたし、あのままいけば俺も死なずに済んだはず。だが。 「危ないッ」 何のつもりか、歩道に突っ立っていた同伴者が俺の後を追い、あろうことか突き飛ばしてきたのだ。お陰で俺はトラックに轢過。ジ・エンド。 俺は、あの同伴者のせいで死んだわけだ。 神谷 条(かみや じょう)。 それが、俺を殺した男。 まあ、でも。アイツの事はどうでもいい。俺は刹那主義だ。過去に執着しない。ただ、あのくるくるぱーが同行していたあの状況で、迂闊な行為に出た俺のバカさに、少し情けなくなった。
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