45人が本棚に入れています
本棚に追加
死へのショックは、あまり無い。
生きていた頃の記憶はロクでもない。窮屈で、凡庸で、味気ないものだった。何より俺と親しい人間が一人も居ない。自覚が足りないのも手伝って、自分でも驚く位落ち着いている。むしろ、肩の荷がぐっと降りた気さえする。
妙な気分だ。
生前、俺は何処かで死にたがっていたのかもしれない。
色々考えてる内に眠くなってきた。まどろんでいた俺の意識は、徐々に遠ざかっていった。
光芒が瞼を射抜いた。
ビックリして目を開けると、女が俺の顔を覗き込んでいた。
呆然とする俺の身体を、女が抱きかかえる。
そしてまじまじ凝視してくる。誰だこいつ。目をぱちくりさせながら、何となく見返す。
爆音が響いた。
「リンダ!子供は?」
「生まれましたよ。元気な男の子です」
「そうか。よくやった」
大破したドアを踏みしめ、フードを目深に被ったローブ男が近づいてくる。俺の顔を覗き込んで、眉をひそめた。
「泣かないな」
「ええ。その代わり、この子の目はとても澄んでいます」
「……俺らには相応しくない目だ」
複雑そうに表情を変えて、男は言う。
「それより、名前は決まりましたか?」
「ああ、今思いついた。ヴァン。お前の名はヴァンだ」
俺を高々と持ち上げて、男は告げた。どうやら俺はヴァンに改名されたらしい。
……ん?
そこで漸く会話の違和感に気づき、続いて身体の違和感に気づく。
首を垂れて自身を見下ろすと、ミニマムサイズのムニムニした裸体があった。誰がどう見ても赤子の体。
は?
混乱する頭を必死で整理しつつ、男女の顔を見比べる。
……えっと。
俺は今産まれたわけだから……赤ん坊として、新たに生まれ変わった?
最初のコメントを投稿しよう!