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目の前に五歳男児が佇んでいた。
黒髪直毛。鼻骨に軽くかかる前髪から、薄水色の眼が覗く。鎖骨には、瀟洒な趣向を凝らした青朱雀のタトゥーが、添えられている。
黒シャツに黒ジーンズと、ラフな格好に加え、ぶかぶかで腕が袖口まで至らない、灰色パーカーを羽織っている。
デフォの無表情が、見るからに可愛げない。
あー、ピノ食いてぇ。
たわいないことを考えながら、パーカーのファスナーを締める。
ひとけの無い自室にジー……と音が響く中、目の前のガキもそっくり同じ動作を見せた。
そのガキは、姿見に映る自分自身だった。
容姿は生前の幼少時代とほとんど変わらないが、目だけ黒から水色になった。この世界じゃ黒の方が希少なんで、そういう意味では、黒髪水眼は珍しい組み合わせだったりする。
ノック音がした。
扉越しにくぐもった声が聞こえてくる。
「若旦那。迎えに上がりやした」
「入れ」
扉が開いた。スキンヘッドに青朱雀を彫った、いかつい部下が現れた。
部下を従え、入り組んだ長い廊下を悠然と歩く。
彼は一歩後ろに引いた立ち位置で、何も話さない。目的の部屋に着くまで、お互い始終無言だった。
これから行われるのは、魔力測定。五歳の誕生日に決まって履行する。この行事を終えると、晴れて魔法の行使が認められる。一生の一大イベントともいえる。
「ヴァン。待ってたわ」
見張りの横を素通り、入室した俺を、母親が手招く。
殺風景な空室に、母の姿が浮き上がって見える。その傍らに台が据えられている。
台の上には、二つの水晶。
母を一瞥する。「どうぞ」と言わんばかりに首肯したのを確認してから、片方の水晶に手をかざす。
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