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試合前の殺気立った気配を拾った俺は、そちらに目を向けた。
対峙し、構え合う下っ端二人。闘志の火を灯した目と目が、かち合って動かない。
一触即発。息詰まるような熱気が、彼らの周囲を取り巻く。
ーーーパンッ!
乾いた衝突音。
予備動作一つなく、二者共だしぬけに打ちかかっていた。
ギリギリと交差し合う竹刀。
双方同時に飛び退く。
二撃目に入った。
片や力任せの降り下ろし、片や横へ大降りに一閃。
突き、薙ぎ、打ち、払う。互いの相手を弾く激しい連撃。乾いた音が立て続けに響く。
拮抗する実力。
目。喉。首。頭。鳩尾。背骨。互いの全攻撃が急所狙いの一撃必殺。
防具はない。気を抜けば死ぬ。だからこそ高まる緊張。
半ば殺し合いとも言えるその試合を、止める者は一人も居ない。この訓練場では、それが当たり前。
この荒々しさが、個人的に受けつけなかったりする。洗練された剣戟が、此処にはない。
といっても、別に指導方法に難癖付けるつもりもない。勝手にやってればいいと思う。
荒削りながら迫力のある試合が、そこかしこで頻発している最中。
出入り口の扉がスライドした。
割と大きく響いた開閉音に、喧騒が打ち破られる。
扉をくぐって現れたのは好青年といった態の男。誰だ、あれ。
男は師範代のもとへ歩み、何やら話し合った後、俺に顔を向けた。
「やあ」
親しげに声を掛けてくる。や、まず名乗れ。
「……やあ。誰?」
「君の父の同僚。シモン=デルトムントだよ」
「俺はヴァン=クロソイドです。名乗っておいてこう言うのも何ですが、その様子だと俺の事は事前に聞き及んでいるようですね」
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