第1章

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2025.6.27 【From】 東都大学生物学研究室・和久井 【Sub 】親愛なる末永君へ 【本文】こんな出だしの時は、あんまりいい知らせじゃない。そう、わかっているよね。 まず、ワンゲルの同じ同期だというのにいつかいつか……と思いながら、未だに君を訪ねることすらできそうにない不甲斐ない僕を許して欲しい。 10年前の君の終焉の地……あの動画の送信後、雪崩に埋もれた墓標の地を。 あの時、倒れそうなほどやつれて悲しんだ奥さんも君の失踪宣告が認められてからは再婚して生き生きと……いや、今、こんな話はよそうか。 ちょっとだけ僕の話をしてもいいかな?実は君があの動画を撮った場所にいつか立ちたくて…、資金を貯めたりトレーニングをしたり、結局十年掛かってしまった。そして僕は自分が思ったより老いていた。 同行の皆とはぐれて君の遥か下でビバークしている。いや、僕が単独で帰還できる可能性も低いだろう。 君が昔、メールをくれたけど……イエティと思われていたあの新種の生物は肉食だそうだね……仕事がら、ヒグマもグリズリーも見たことがあるけど僕が思うに彼らの方が遥かに大きくて凶暴だと思う。何しろ昨日僕らを尾根で執拗に追いかけ、僕以外の全員を谷底に蹴散らし……みんなどうしたんだろう?滑落死か他のスエナガーの餌になっているか――ああ、スエナガーっていうのはね生き物の日本語名だよ。学名にも君の名前がついた、って話はしたっけ―― ……テントの外に誰か…いや、何かいる。末永君、君なのか? いや、まさか……。 ならばスエナガー? 末永君か? スエナガーか? 末永君か? スエナガーか? オヤジギャグだよ。 せめて君の生まれ変わりのスエナガーであれば笑って見逃してくれよ……ああああああ僕はいったい何を書いているんだ? 荒い息づかい…… 匂いを嗅いで……テントを…… それにしてもこんな時に 僕はこのメールをいったいどこに送ろうと あはははははははははははははははははははははははは(以下判読不能) END
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