小説

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「わあ、沙織のお弁当美味しそう!」 友香、由利、愛子、私の4人で弁当を広げる。屋上は、風が吹き抜けて気持ちが良かった。 「えへへ、自分で作ったんだよー。凄いでしょ、さすが私!」 なんて冗談を言うと、由利が「あれー、お母さんは?いつもお母さんが作ってたんじゃなかった?」と聞く。内心ギクッとしたが、 「あー、お母さん。ちょっと忙しくてね・・・」 と適当に答える。 嘘だとバレバレだ。だって、私のお母さんは専業主婦。忙しくてね、なんて言えるほど急激に仕事の量が変化することなど、滅多にないのだ。 しかしそれ以上は聞かれなくて、「そういえばさ、昨日のドラマ見た?」と愛子が話題を変えた。 それから続くたわいもない会話。もうすぐチャイムも鳴るし片付けようか、という頃、ピリリリリと友香のスマートフォンが鳴った。その画面を見た友香の動きが止まった。その顔には血の気がなく、私はぎょっとした。 「どうしたの、友香・・・?」 しかし友香は答えずに、さっさと弁当を片付けて、一人出口に向かう。私たちも慌てて片付けて追いかけた。 「友香、どうしたの?」 「なんでもないよ」 階段を降りようとする友香の肩を掴む。 「なんでもなくないでしょ!なんかおかしいよ」 勇也が亡くなったときから、友香はずっとそばで笑ってくれていた。その顔に、今は笑顔がない。明らかにスマートフォンを見たことがきっかけだ。気になるに決まってる。 「スマホ見せてよ。何かあったんでしょ」 「なんにもないってば!」 私の手を振り払おうと大きく体勢を変えた身体が、一気に傾いた。私は慌ててその手を掴もうとする。 「友香!!」 一瞬だった。一気に階段を転げ落ちた彼女を中心に、赤い海が広がる。 「きゃあああああ!」 後ろで誰かの叫び声がした。友香の近くには、画面がひび割れたスマートフォンが落ちていた。
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