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 とたたたたた――――!  「きゃー、捕まえて捕まえて――!」  今、わたしの目の前で少々おかしな追いかけっこが繰り広げられていた。  ここはわたしの友人宅、床ではおデブハムスターがとてもご機嫌そうに走り回り、友人はそれを捕まえようとてんやわんやしている。  わたしはと言えば、目の前で何が起きているのか判らず、暫くの間完全に呆然としてそのおかしな光景を眺めていたが、その時友人が少し苛立ったような声でわたしに言った。    「何やってんの!捕まえんの手伝って」    はっ、いかんいかん。友人の〈手伝え〉発言で我に帰ったわたしは、ハムスター捕獲を手伝うことにして、友人の方を見た。  すると――― 友人は部屋の隅に置いてある洋服箪笥と壁の間にある、少し狭い隙間の中を覗き込んだり、隙間に向かって「お―い」と声をかけたりしている。  わたしは友人のその様子に少し驚き、一体どうしたのか、と聞いた。  すると、友人は少し困ったような笑顔で言った。  「この中に逃げ込んじゃった」  友人によると、ハムスターは案外活発な生き物で、一度小屋から外に出すと、あっと言う間にどこかに行ってしまうのだ、との事だった。  どうやって捕まえるつもりなのか、とわたしは友人に聞いた。  いくら相手がハムスターとはいえ、そうホイホイとどこかに行かれては、飼い主としては心配だろう、とわたしは思った。  しかし、友人はやはり困ったような笑顔を作って言った。  「え~っとねぇ、どぉ~しよう。」  あららら。わたしは少し気が抜けてしまった。
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