第5話 許可

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『東北・甲信越 寒中水泳競技会 予選』は、開会式も開催の挨拶も無しに、いつのまにかヌルっと始まった。 長さ二十五メートル、幅二十メートル、水深一・四メートルのプールが、試合会場だった。 ただし、水は一滴も張っていない。 この四角いコンクリートの壕が、ヤツらの土俵であり、リングなのだ。 入水用のスロープを、台車に乗せたケージが下りていく。 ケージにはアルミシート。 それは、ラバナスを見せないためのものではなく、外界の刺激に中のラバナスを興奮させないための配慮らしい。 プール槽に二つのケージが運び込まれる。 一方は、西側のスタート台近くに、もう一方は東側のスタート台近くに置かれた。 プールの端と端、向かい合わせるように置かれた二つのケージ。 それぞれのスタート台の上にいる係員が準備完了を確認し、持っていた旗を振り上げる。 二本の旗があがった次の瞬間、二人の係員が同時に旗を振り下ろした。 「アンリーシュ!」 その掛け声に合わせて、それぞれのケージのドアが開かれた。
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