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プール中央で、頭同士をぶつけ合う。
場内にバチンという音が響いた。
そして大口を開けて、いたるところを噛み合い始めた。
遠目に見れば、イヌと仔ウシのじゃれ合いに見えなくもない。
ただ、目を凝らせば、ドーベルマンの化け物と仔ウシの化け物が、互いの腹や脚を噛み千切ろうと、必死にもがいている。
血しぶきが飛び、遠吠えのような鳴き声が聞こえた。
脚が取れ、尻尾が引きちぎられても、相手の腹に食らいつく。
オレは見ていられず、目をふせる。最悪だ。
観客が一斉にうなり声をあげる。
拍手もちらほら混じっていた。
どうやら勝負がついたらしい。
争うような荒い息は消え、無我夢中でエサに食いつく鼻息に変わった。
オレはそっと顔を上げてみる。
プールの真ん中で、血を飛び散らせながら、仔ウシがドーベルマンの脚を咀嚼していた。
オレはまた、顔を逸らす。
「やっぱ、無理だ。オレ、見てらんない。何で生きたままま食うかね?」
「生きたものを食べないと、遺伝情報は受け継がれないからさ。ラバナスは、互いを認識すると食い合う習性を持っている。だから、こういう試合が成立するんだよ」
梅田さんは、嬉しそうに解説してくれた。
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