第1話 鉤爪

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その日、巷では解散総選挙の話題で持ちきりだった。 何がなんで解散するのかよくわからなかったが、テレビの街頭インタビューでは不満や不信の声があがっている。 そりゃ大変だと、オレは鼻くそをほじりながらテレビを消した。 朝から頭を使うなんて、オレらしくない。 ベッドに横たわりながら、駅前でもらったフリーぺーパーをパラパラとめくる。 県内のクリスマスイルミネーション情報が満載だ。 コンベンションセンターでは、先週末に点灯式があったらしい。 今夜はバイトも休みだし、好恵を誘ってみるかな。 そんなことを思いながら、スマホを手にした瞬間に、着信音が鳴り響いた。 オレは慌ててアイフォンを捕り落としそうになる。 電話相手はおふくろだった。 「信太郎からの連絡がないのよ」 お盆に会ったっきりだから、三か月ぶりに聞いたおふくろの声は、開口一番にそう言った。 朝っぱらからあいつの話なんて、耳触りもいいところだ。 だが、テレビの電源みたいに、おふくろからの電話を切ることはできなかった。
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