262人が本棚に入れています
本棚に追加
/479ページ
「俺も、これだけは大切な思い出だから外せないんだ」
「うん、私も」
買ってくれたミルクティーを飲み、ほうっと息をつく。
そういえば、冬が近づいた日の放課後、パーカを掛けてきた杏汰の息があまり白くならなかったなと、ひまりは思いだした。
「でも、思い出にしたくないこともあるかな」
「たとえば?」
「うーん……ひまりちゃんに告ったこととか?」
「あはは、思い出にしないでよ」
「それから、小早川がいたことも」
ブラックコーヒーを飲んで、曇った窓ガラスに人差し指で落書きをしている。
「七瀬くん」
「そろそろ、伊月って呼んでくれる?」
「……伊月くん」
「ハイ」
自分から言ったくせに照れくさそうにする伊月は、口元に手を当ててごまかしている。
「お誕生日おめでとう。今日、誘ってくれて嬉しかった」
「なんだ、知ってたの?」
少しだけ頬を染めた伊月は、落書きした今日の日付を横目で見て笑った。
最初のコメントを投稿しよう!